※Sub桜×Dom蘇枋
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秋分の日を境に、日が少しずつ短くなってくる。それはまこち町においても同じことで、だんだんと夜が長くなってきた。しかし、商店街がハロウィン一色になっているにも関わらず、十月も下旬に差し掛かったその日は異様な気温を誇り、真夏日を記録するほどだった。
商店街の街頭に掲げられたハロウィン祭りのフラッグも秋風に煽られていたのに、また夏が戻ってきてしまったのかもしれない。
残暑というにはあまりにも季節外れの、秋晴の候は制服も衣替えを目前のころだ。だが、校内では深緑のジャケットはまだあまり見られないし、町のなかでも半袖の人びとが目立っている。
商店街をふだん駆け回っている子供たちが、店の大人と一緒に鮮やかな橙色のジャックオランタンの顔をくりぬいたようだった。激しい形相をしているカボチャもいれば、不恰好さが微笑ましいカボチャも、店先を所狭しと並んでいる。そんなハロウィンの装飾をちらちらと目に入れながらも、いつもと同じように多聞衆の面々で見回りをしていた。
さぼてんの前を通りすぎようとすれば、ぞろぞろと列の真ん中を歩く桜の腕のなかに溢れかえるほどのパンがのせられていく。すでに周囲の者にとっては見慣れた光景で、みな一様にあたたかな視線で見守っていた。桜は「いらねぇって!」と叫びながらも、それをつっ返すようなことはしない。
「たくさん貰っちゃったねー」
桜の真隣では、いつもよりトップスの丈が短く、ちらちらとズボンのハイウエスト部が覗く蘇枋がにこやかに囁いた。真夏でさえも汗をかいていない様子の蘇枋も、季節外れの気温に暑苦しさを感じているのか、チャイニーズブラウスの長袖はまくっていた。
蘇枋は耳元でちいさく呟いたので、いつもなら桜が大仰に手で振り払ってくる────はずだった。
だが、降ってきたのは桜の腕ではなく、両手からぽとりとこぼれ落ちる柔らかで透明度の高いビニール袋に入ったクリームパンだった。照れているのだと思い、地面に落下したそれを蘇枋がひょいと拾い上げて桜の顔を見れば、血の気が引いていた。
「…………! 桜君、こっちに来られるかい」
ふざけているわけではないと即座に判断した蘇枋は、ポケットからクリーム色のシルクのハンカチを出す。桜の額から滴りだした汗を四つ折りのハンカチで抑えるように拭きながら、日陰へと誘導した。
その間にも桜の呼吸はみるみるうちに荒くなり、ひゅうひゅうと喉から空気の音がした。二歩ほど後ろで慌てる楡井に水を買ってくるよう蘇枋は告げる。
「もう秋なのにこんなに暑いから熱中症かな、……ちょっと触るよ」
一番手近な路地裏に辿りつくと、壁にもたれかかる桜のTシャツの襟ぐりから蘇枋はしなやかな手を入れた。
「……っ、んな、ヤワじゃね……ぇ、って……」
蘇枋のしっとりと冷たい手のひらを払いのけるように桜は腕をあげようとするが、うまく上がらずに不発で終わる。
「でも桜君、こんなに汗をかいてしまっているじゃないか、きちんと『休んで』」
「〜〜〜〜〜ッ!!!!」
その瞬間、桜の身体がなにかのスイッチを押されたロボットのように断続的に跳ね上がった。うまく吸うことの出来なくなっていた酸素が一気に身体中に巡っていくような感覚を桜は覚える。
「…………っ、!? ぅ、あ……んだこれ……」
「さ、くら君……きみは……」
蘇枋の発した無意識的な『コマンド』に桜の身体が反応しているのは明らかだった。だが、桜はそれを自覚している様子ではない。
蘇枋はそれを告げるかどうか逡巡する。桜のだらだらと流れ続けていた汗が、ぽたりと地面に落ちてアスファルトの色を濃くした。きゅうに息のしやすくなった身体が不思議なのか、桜はしきりに手のひらを開いたり、握ったりを繰り返して動きを確かめているようだった。
バサバサと頭上にカラスの群れが羽ばたいてゆく。蘇枋の少しの動揺を感じているのか、桜は琥珀とグレーの二色の瞳を丸くした。
蘇枋もまた、この瞬間、自身の内側に血が滾っていくのを感じていた。
小走りの足音が表通りのほうから聞こえてくる。それからすぐに、肩で息をする楡井がペットボトルの水を握りしめてやってきた。
「にれ君、ありがとうね」
結露が起こっているペットボトルは、受け取る際にすこしだけ手のうちで滑る。
「……あ、りがとな」
唇を尖らせてお礼を言う桜の顔色が先ほどよりマシになっていることを確認すれば、楡井はほっとしたように胸を撫で下ろした。
「桜さん〜〜どうしちゃったかと思いましたよ、熱中症でしょうか。ゆっくり休んでくださいね、蘇枋さん、ちょっとだけこのあとお願いできますか?」
一本だけかと思っていた水は、どこから出しているのかわからないくらいどんどんと手渡される。楡井のお願いに対して、「任せて」と返事をする蘇枋はそれらを抱え込むように引き取った。すべてを押し付けるように渡し終わると「じゃあ、オレ、梶さんたちに報告してきますんで!」と楡井はふたたび慌ただしく駆けていった。
「……せわしねーやつ」
「優しいね、にれ君は」
楡井のみるみるうちに小さくなる背中を桜と蘇枋は見つめながらぽつぽつと口を開いた。
◇
もう間も無く、風鈴高校にも文化祭の時期がやってくる。衆ごとでの屋台と、クラスごとの展示や飲食があるため、生徒はおおわらわで忙しなく校内中を駆けずりまわっていた。
一組の生徒もご多分に漏れることなく、入学当初からペイントまみれだった教室の壁をさらに色とりどりに装飾するのに忙しい。
茜色に染まる放課後の教室は、日中の授業をまともに受けることのない風鈴生もみなこぞって協力しあって準備に勤しんでいた。
「蘇枋、これどこに置けばいんだよ」
「ああ、それは教卓の上に『置いて』くれるかい」
副級長でもあり、司令塔になることも多い蘇枋は文化祭においても指示を仰がれることが多い。
蘇枋の指示を聞いた級友は近くの店でもらってきた段ボールの束や模造紙を教卓の上に置いた。
クラスメイトが離れていくそばで、そばにいた桜の様子が変わったことに蘇枋が気づく。
「桜君…………」
「……っ、お前、またなんかしただろ!」
頬に紅葉を散らして激昂する桜に対して蘇枋は困ったように眉を下げて唸る。きゃんきゃんと噛み付くように赤くなって声を荒げる桜の様子は日常茶飯事のためクラスの誰もが気に留めていない。
「桜君、このあと君のおうちに『行かせて』」
「ッ、〜〜う!? 普通に、言えねぇのか、よっ」
ぞくぞくと背筋を走る甘やかな違和感に桜は机に手をついて大きく息を吸う。
「……いいかい?」
小首をすこしだけ傾げてじいっと桜の揺れる双眸を見つめた。
「なんなんだよマジで……来たけりゃ来ればいいだろ、てかいままでんなこと言わずに勝手に来てたくせに」
何を考えているのか、出会った頃からわからない蘇枋ではあったものの、桜の身体に変化があってからはさらに不可解なことが多い。桜が「くそ」とばつが悪そうに顔を背けて憤慨してみせた。
「ふふ、ごめんね。ありがとう。『優しいね』桜君は」
「っ、……っは……」
蘇枋が労いの言葉をかけるだけで、桜の喉にはねっとりと甘い蜜が絡まったようだった。だんだんと広がるそのたおやかな味は、桜がいままで感じたことのないほど甘ったるく、頭の芯までぼうっと痺れさせていく。
桜はモノトーンに交わる頭をがしがしと荒く掻いて、全身にまとわりついてくる瑞々しい桃のような空気を拭おうとする。思いきりかぶりを振ってみてもなお、一向にその甘美さは拭えなかった。
「蘇枋〜! こっちの展示も見てくれ」
はーい、とクラスメイトのほうへ向き直って高らかに返事をした蘇枋が桜のそばから離れていく。教室の奥へと蘇枋が去ってもなお、桜はその場から離れることが出来ない。真っ黒な桜のスニーカーの裏が、ぴったりと接着剤で地面にくっつけられてしまったかのようだった。
◇
教員が帰宅を促すこともない放課後は、だらだらと居残りがちだ。町の見回りの担当ではないクラスはほとんどそうで、桜もまた、いくつもの恒星が集まったすばるがぼんやりと雲のように輝く空になってからようやく帰路につく。
星が瞬く桜の家までの道すがら、蘇枋は一言も発することなかった。桜から半歩下がって後ろで手を組みながらゆっくりと歩く。カンフーシューズが柔らかくアスファルトを踏み締めるたびに、同じリズムで黄色のタッセルも揺れ動いた。
桜もちらちらと蘇枋の様子を窺いはするものの、何かを話すわけでもない。もともと、桜にとって蘇枋は何を考えているのかさっぱりわからない上、この何週間か蘇枋と話すと桜自身もわけのわからない状態に陥るため微かな警戒心が解けなかった。桜は無言のままポケットに手を突っ込んで大股で歩き続けた。
カンカンカン、と耳に刺さる高い音を鳴らしながらアパートの外階段を上がっていく。他に住民のいない桜の住むアパートでは、騒音問題は特に起こりそうにない。
玄関を開けると三和土にはスニーカーが三足ほど並んでいる。気に入っているからなのか、整然とそれらは並んでいた。
「お邪魔します。桜君の靴っていつも丁寧にお手入れがされているよね」
「あ? わかんのか、お前……!」
特に好んでいるものを蘇枋が指差したからか、桜は不機嫌な様子から一転し、黒目を大きく輝かせた。
「あんまりわからないかな」
きゅっと口角をあげて笑う蘇枋は悪びれた様子がない。
「んだよ……っ」
舌打ちをしかけた桜は、ぐんにゃりと視界が揺らぐのを感じた。立ちくらみのようにブレていく桜の頭を視界に捉えた蘇枋は、咄嗟に目の前の両肩を掴む。
「桜君、っ! ────『こっちを見て』」
「っ、は…………」
ゆらめいていた世界が強制的に揺り戻されたかと思えば、平衡な視界へと戻ってくる。桜は呆気に取られていたが、はたと気づくと蘇枋に支えられていた肩を片手で振り払った。
「おい……っ! ここ最近、毎回毎回オレの身体に何してんだよ、わけわかんねぇんだよ……っ」
スニーカーを脱いで部屋にずかずかと入りながら桜は立腹している様子だった。蘇枋も桜に続いて先の丸い黒い靴を脱ぐと丁寧に手で揃えると、六畳の和室へと進んだ。
布団が敷きっぱなしになっているその部屋の隅に桜が仁王立ちをしている。蘇枋は桜の目の前に来ると、すうっと息を大きく吸った。
「……桜君、君のダイナミクスはなんだい」
「はぁ?」
怪訝そうに眉間に皺を寄せて、桜は蘇枋の「だいなみくす」という言葉を繰り返した。
「もしかして、知らない……のかな。それとも、ない、って診断されていたりしたかい」
常日頃のおちゃらけた様子にしか思えない蘇枋の口ぶりが真剣そのものに襟を正しているものだから、食ってかかろうとした桜も言葉を飲み込んだ。
「……わかんねー、知らねぇ、んなもん……」
ぽつりぽつりと一言ずつ区切って伝える桜の言葉を蘇枋は邪魔することなく聞き入った。蘇枋の予想する通り、桜は自身のダイナミクスを自覚していないようだった。
「お医者さんの診断がないと明確には分からないと思う。けれども、オレが見る限りでも最近桜君が調子を悪くしていたのはおそらく────『サブドロップ』、だと思うんだ」
耳馴染みのない言葉が続き、桜は煮え切らない面持ちをする。
「桜君は、身体の性別は男性だよ。けれど、この世界には第二の性を持つ人もいる。もちろん、持ってない人だっているんだけど……。第二の性というのは、『ドム』と『サブ』というもの……なんだ。そして、オレは『ドム』という性を持っている。……クラスのみんなには内緒にして欲しいんだけどね」
最後の「内緒」の部分だけ蘇枋は声のトーンを落としてみせた。
「んな内緒とか言ってる話、オレにしていいのかよ」
桜は片方の眉だけ器用にあげる。
「もちろん、桜君に隠し事なんてしないさ」
「もうそれが嘘なんだよ……。で、続きは?」
ぱっと手を広げていつもの張り付いたような笑みを浮かべる蘇枋に、桜は大きく嘆息した。
「ふふ。それで……『ドム』というのは、『サブ』を庇護することで欲が満たされるんだ。また、『サブ』は『ドム』を信頼することによって欲が満たされる。その関係性を持った上でプレイをすると普通は力が暴走しないんだけれど────」
「プ、プレイってなんだよ……っ」
蘇枋の話を遮るように、桜は口に手の甲を当てて耳の先まで長春色に染めて肩を震わせている。
「あはは、そんな真っ赤にならなくても大丈夫。たとえば、そうだな……桜君、『手を握って』」
蘇枋の葡萄色の隻眼に捉えられると、どくん、と桜の胸が脈打つ。ぱくんぱくんと心臓の音が不如意に大きくなっていく。蘇枋の言葉になんて従いたくないはずなのに、胸のうちから触れたいという欲望がふつふつと湧いてきては止まらない。
「大丈夫、そのまま……『触って』」
桜の指先が、立ったまま向かい合う蘇枋の人差し指の先にちょこんと触れる。ゆっくりと深爪の指を滑らせ、蘇枋の手を握りしめる。────その瞬間、感じたことのないような痺れが桜の身体中に波のように押し寄せてきた。
「な……っ!??」
熱い血が脈打つえも言われぬ心持ちに鷲掴みされて、桜はぱっと手を離す。
「『えらいね』、桜君。………………はい、これがプレイの一種だ。わかったかな。そんな赤くなるものじゃないよ……って、わあ〜真っ赤だね。桜君」
「〜〜〜ッ! お、お、お前……! 急に変なことしてんじゃねぇよっ!」
蘇枋と一歩距離を取った桜が、指をさしながら喚いた。
「変なんかじゃないよ。『ドム』と『サブ』の性を持つ人間は、定期的にこういうプレイをしていかないと、最近の桜君みたいにサブドロップと言って体調を崩してしまうこともあるくらいなんだ。必要なことなんだよ」
桜がおずおずと指を下げて閉口する。実際、体調を崩した桜を救ったのは蘇枋の『プレイ』であったことに間違いはない。蘇枋はホラ吹き人間だと思っている桜も、この話ばかりは信じるほかなさそうだった。
もごもごと口の内側でなにかを呟いていたらしい桜が、意を決して口を開く。
「……なあ、じゃあオレがおかしくならねぇように……今度からお前がやってくれんのかよ」
そのプレイってやつを、と桜は消え入りそうな小さい声でつけたした。
「え? えぇ、っと……そういうのは、恋人というか『パートナー』とやるものだから……オレが桜君に今回していたのは授業みたいなもの、というか、応急処置というか……?」
「……お前はオレじゃ嫌なのかよ」
桜は耳が熱を帯びたまま、じとりと蘇枋を睨みつける桜の息は荒い。桜が迫ってくるごとに、蘇枋は予期していなかった展開にしどろもどろになっていく。
「嫌というか、パートナーの意味分かって言っているのかい」
蘇枋は困ったように微笑みをたたえた。
「お前、もうそういうやついるのかよ」
また一歩、桜が蘇枋ににじりよった。蘇枋が後ろに引こうとすれば、手首を掴まれる。
「いない、いないよ……でも……そういうのは好きな人がいいんじゃないかな」
桜の琥珀の瞳から視線が逸せない。逃げ場もない蘇枋は、言葉が途切れ途切れになる。
「………………お前」
「……………………っ、は?」
桜がぽつりと呟いた一言に、蘇枋の口から間抜けな声が出た。
「オレの、好きなやつ」
掴んだ蘇枋の手をつうと撫でるように触れながら、桜は息がかかるほどに顔を近づけた。
「な……、ちょ、ちょっと、……そんな、桜君ってばそんなこと言うタイプだったかな」
「……タイプってなんだよ、好きなもんは好きなんだよ。しょうがねぇだろうが」
じたばたと手を動かす蘇枋に、桜は畳み掛けるように想いを告げた。
「〜〜〜〜ッ、『黙って』くれないと……っ」
「っ!? ………………ぐ」
蘇枋が焦って発した言葉はコマンドとなり、桜の口を塞いだ。
「わあ、ごめん、不意打ちだったからコマンドを使っちゃったみたい……」
「………………良いってことだな。『プレイ』だもんな。これも」
数瞬して話せるようになった桜が口の端を上げる。
「え、ちょっと、桜君! 『ストップ』、だめだよ、わ……ッ」
ふたたびコマンドを使われ、一瞬動きが封じられる桜だったが、身体が自由になると蘇枋を組み敷いた。
「好きだ、蘇枋」
「っ! だめ、……そんな顔で言われたら……っ! サブを……君を、甘やかしたくなるのがオレのダイナミクスなんだよ……っ?」
畳の上に直で押し倒された蘇枋は、たじろいで抜け出そうとする。それでも、指を絡めてくる桜の手を離すことができない。
「お前を抱きてぇ」
「え、っ……! しかもそっちなのかい……。君に敵わないの、知ってるくせに。ずるいんだから、桜君は。………………もう、しょうがないなぁ……。『おいで』、桜君……っ、んぅ」
桜の身体が吸い寄せられるように覆い被さって、蘇枋の薄く色づく唇を奪う。勢いよくぶつかった桜の犬歯に、蘇枋の唇はちりりと傷んだ。
ちゅ、ちゅと触れるだけのキスを何回か繰り返したあと、蘇枋の口がほんの少しだけ開く。桜はどうすればいいのか蘇枋の手のひらをぎゅうと掴んだまま一瞬固まるが、蘇枋が舌を少し出して誘えば、それに吸いついた。
「ん、……ッ♡ ふ、ぁ……ン、うん、『上手だよ』、さくらく、……んっ♡」
「〜〜っ、う、やめろそれ……っ」
えらいね、と立て続けにケアを発する蘇枋の唇を桜は自分のそれで黙らせる。
「でも気持ちいいでしょ? 大丈夫だよ、そのまま……♡」
蘇枋の薄い舌を、桜の舌が唾液をたっぷりだして絡みつく。くちゅくちゅと鳴る音が淫靡で、その音は桜にも蘇枋にもぞくぞくと鼓膜から内部へと響いて下肢に熱を送った。
桜の手が次第に蘇枋の顔のほうへと上がっていき、薄い耳朶に触れる。びくん♡と蘇枋の腰が跳ねたことを確認すると、そのままピアスホールとキャッチの間をこすこす♡と触れた。
「ぅ、あ……♡ やだ、そ、んな……どこで覚えてくるの……っ?♡」
「は? わ、っかんねぇけど……お前の耳、いつもしゃらしゃら鳴ってて、耳たぶ、よくみてた。……ずっと触ってみたかった」
口付けをしながら耳朶を愛撫するように責められ、蘇枋の舌もぴくぴくと震える。
「〜〜〜ッ、う♡ ずるいよ、桜君は……♡ ね、ここも、『触って』…?」
蘇枋はチャイニーズブラウスをたくし上げ、へそを露わにする。持ち上がった裾からはぷくりと膨らむ薄桃色の乳首が見えた。
「っ、……な、んでお前は肌着着ねーんだよいつも……」
疼き立つ胸の果実から目を逸らしたものの、やはり欲に勝てなかった桜がまじまじとそこを見つめた。
「ふふ……どうしてオレが肌着を着てないって知ってるの?」
「……っ! 他のやつらと手合わせしてるとき、チラチラちらちら腹が見えてっから……!」
桜の朱に染まった頬と額を見て蘇枋は破顔する。可愛い。蘇枋の心のうちから庇護欲が溢れ出てしまいそうになる。
「あは。そんなところばっかり見てたの? 桜君って……えっちなんだ♡」
蘇枋は裾を持ち上げた反対の手で桜の赤面する頬を撫で上げる。
「は、はぁっ!? くそ、ほら、触るぞ……!」
顔に寄せられた手を桜は掴んで離させる。そのままトップスの下の部分から擦り傷の絶えないごつごつとした指を入れる。
ふくらんだ乳頭を見つけると、人差し指と中指で挟んで擦った。初めて触れた蘇枋のグミのようなそこは、桜自身についているものとは似て非なるもののようだった。
「ン、っ……♡ ぁ、じょうず……♡♡ っふ、ぁ♡ ち、くびの……いちばんうえ、こすこす♡って、きもち…………っ♡♡♡ もっと、して……ッ」
のけ反って震える蘇枋の背中が畳に擦れていく。
「ちょ……っ! そんなにしたら痛ぇだろ」
「っふ……♡ 畳の上に組み敷いたのは、桜君なのにな……っ♡ でも、そうだね、お布団……いこっか♡♡」
すぐ横にある、すでにくしゃくしゃになっているシーツを蘇枋は見つめた。
「お、……オレの布団に、お前が……?」
「それ以外どこがあるっていうの? 桜君ってば初心なんだからー」
可愛いね、と今度こそ蘇枋の口から飛び出てしまう。それでも桜は気にする余裕がないのか、暴言が飛んでくることはなかった。
「くそっ……なんでお前はそんな余裕なんだよ……っ!」
さながら煎餅のように薄い敷布団の上に蘇枋を改めて組み敷く。はだけたブラウスから覗く鴇色がやけに扇状的で、桜の鼓動が一段と早くなる。
「そんなこと、ないよ……ほら……♡」
蘇枋は自分の胸元に桜の手を誘導する。ぷっくりと突起した乳首を掠ってしまい、「ンっ♡」と嬌声をあげる。
「お、おい……!」
「ね、……どきどき、してるでしょ?」
妖艶にゆっくりと微笑むと、蘇枋の色づく舌が見えた。
「〜〜〜っ! あんま煽んな……っ」
蘇枋のしなやかな指が桜のベルトに手をかける。金属音をガチャガチャと立てながらバックルを外すと、すでに窮屈そうにしていた屹立がぶるんと勢いよく顔を出した。
「き………………」
「はぁ? き……?」
「規格外すぎる、と思うんだけど……」
先刻まで夢見心地の気色を浮かべていた蘇枋が一瞬我に返ったようなそぶりを見せる。
「なにがだよ」
冷静さを取り戻しつつある蘇枋に、桜は疑念を抱いて目を向けた。
「君の…………」
ゆっくりと桜の熱茎に指を向けた蘇枋につられて、桜の視線も下方へと向けられる。
「は、……はぁっ!? なに言ってんだよ、ていうか知らねえしそんなん……」
「…………君の無知っぷりがいまだけはちょっぴり憎いかな」
ため息をついた蘇枋はカバンからハンドクリームを取り出した。
「? 何に使うんだよ、それ」
蘇枋は自身のワイドパンツをゆっくり下ろす。
「君の大きすぎるそれを見て、オレは自分のお尻が心配になったので自分でほぐすことにしました。桜君、……『ちょっと待ってて』」
「う……!」
蘇枋に触れようとした桜の指先がぴたりと止まる。
「いまそれはずるい、だろ……!」
「『いい子』だから、……っ! ……っふぁ……ね……っ?」
下着をくるぶしのあたりに絡み付かせたまま、蘇枋が自身の蕾にハンドクリームを塗りたくった指をつぷ♡と挿入した。
みちみちと入り込んでいくその指を、動けないままの桜は食い入るように見つめる。
「エロすぎんだろ」
「ッ、あ……♡ はっ……♡♡ ん、ぅ♡」
白いクリームが指とともに中に入っては出て色を失っていく。
「あ〜っ……♡ やっぱり、桜君のごつごつした太い指でやってもらったほうが、いい、……っかもな……ぁ♡」
蘇枋の上で固まる桜の指の先を捕まえると、そこにハンドクリームを五センチほど出した。
「う、ぉ……つめて」
「うん、だから、桜君の手で温めてから入れるんだよ……♡」
熱をはらんだ目で誘ってくる蘇枋の愛嬌のある表情に桜はくらくらとめまいがする。
すげー可愛い、と言ってしまいそうな口をすんでのところで噛み締めて、言われた通りにハンドクリームを両手で温める。
「こんくらいで、いいかよ」
指先でぴと♡と淫靡な穴に触れれば、蘇枋の腰が期待に浮く。
「ッあ……♡」
「わりぃ、まだ冷てーか」
一瞬離れた桜の手を蘇枋が捕まえる。
「ううん、もう、だいじょぶ……っ♡ いいよ、『来て』……ッ♡」
蘇枋の『コマンド』に否応なしに桜の屹立もびくりと震える。逸る欲を抑えて、おずおずと蘇枋の裏の花弁へと指を潜らせていく。
「〜〜〜っ♡ ぁ、ン♡ すごい、桜君、『じょうず』……っ♡ そこが前立腺、だよ♡♡」
「ぜんりつせん……?」
「ふ、ふ……っ♡ 前立腺も知らないのに抱きたいなんて言ってたのかい? ここの、おなか側、しこりがあるだろ……っ?♡ そこ、きもち、ぃの……ッ♡♡ あぅ♡ そこ……ッ♡」
初めてとは思えないほど桜は的確に前立腺を擦り続けた。蘇枋が一人で触った時など、最初はわからなかったものだったというのに。
快楽に身を任せるように、桜の首に蘇枋は腕を巻き付ける。蘇枋に抱きしめられる形になった桜は、耳元で漏らされる吐息に心臓を鷲掴みにされた。
「ふ……ッ♡ ぁ、う♡ さ、くらくん…………ッ♡♡」
桜の指をもっと深くとねだるように蘇枋が腰を前後にくねらせる。きゅうきゅうと締め付ける肉壁が直に桜の指を食んだ。
「っ、待て、って……! 手ェちぎれるわ!」
人さし指を増やした桜は二本の指を挿入する。
「あっ、……ぁ、ッ♡ はぅ♡ う〰〰〰〰っ♡♡ き、もち……それ、いい……っ♡ 」
首に回した腕を、媚肉と同じようにぎゅうと締めれば、気道が塞がれて苦しかったのか桜が「ぐぇ」と声を漏らした。
「わ……っ、ごめんね、桜君……っ。……おわびに、もうそろそろ『入れて』いいよ……っ♡」
「いいよ、のわりにコマンド、使ってたらもう、それは命令じゃねぇかよ……っ」
痛いほどにいきり立った熱塊が、コマンドによってさらに腹につかんばかりに持ち上がる。
「ふふ、バレちゃった……♡ だってもう欲しいんだもの♡」
「くそ、エロすおう……っ」
指をずるん、と勢いよく抜けば蘇枋が甲高く声を上げる。蘇枋は自身の膝の裏を抱え、桜が陰花に挿入しやすいように脚を開いてみせた。
桜は自分の屹立を片手で支えると、蕾にぷちゅ♡と鈴口でキスをする。
「あ…………ッ♡ 『来て』……♡♡♡」
「だ、から……コマンド、を使うな、って……ッ」
やわやわと狭穴をペニスで割り開こうとしていた桜はコマンドで畳みかけられると、腰が意識とは裏腹に進んでいってしまう。
「ごめ、……ッ♡ あ、きた、入ってきて、る……ぅっ♡♡♡」
桜の高いカリ首が入り口を抜けると、きゅうに腹のなかの圧迫感が変わる。
ほぐされたそこはぬちゅぬちゅ♡と音を立てて桜の淫茎を美味しそうに食んではとろけていく。
「〜〜〜っ、くそ、きもちいい、……っ」
「っふ……♡ ほん、と?♡ うれしいな……♡♡ んっ♡ さくらく、んの、おっきくておへそのとこまできちゃってる……っ♡」
蘇枋は白く縦に筋が入った腹の真ん中あたりをさすりながら、上目遣いで桜を見つめた。
「ッ! おい、……っ! で、ちまうから……っ」
「やだ……♡ もうちょっと、『頑張って』、さくらくん……ッ♡♡♡」
まだ半分ほどしか挿れられていないのに、出してなるものかと桜が眉間に皺を寄せて一瞬動きを止める。
しかし、蘇枋がゆるゆると腰を動かしたことによって、ふたたび抽挿が始まった。
「くそ、イかせてぇのか!?」
「んッ♡♡ ぁ、きもち……ぃ♡ きもちいいの、欲しいだけ……っ♡」
とろん♡と目元を綻ばせた蘇枋と目が合った桜は、上体を倒して唇を塞いだ。
「もう黙ってろっ」
「ぁ、……♡ っふ♡ あ、ン♡♡」
ぬるぬると、最初のキスよりも唾液が増えた粘着質なキスは蘇枋の媚肉をさらに甘くした。
首のうしろに回していた手が突かれるたびにだんだんと落ちてきて、桜の背中に赤い引っ掻き傷を作っていく。桜は気づいていないのか、微塵も苦しそうな顔をしない。
ようやく根元まで入ったのか、蘇枋の下腹部は圧迫感でいっぱいだった。
「うごく、ぞ……っ」
「ん、『きて』……ッ、きて、っ♡♡♡」
力のかぎり腰を振ることを我慢していた桜は、そのコマンドをきっかけにぷつんと緊張の糸が切れたように前後の運動を激しくした。
いきなり尻朶に桜の腰骨が叩きつけられるほどの動きに、蘇枋の眼前は火花が弾けたような快感で輝きだす。
「あ、んん……ッ!?♡ はっ……はぁっ♡ ぁ、だめ♡ はげし……♡♡♡」
「お前は……っ! どっちなんだよ、そんなとろけた顔してたら止めらんねーよ……ッ」
「う……♡♡ 止まらないで、ぇ……っ♡♡♡ これ、きもち♡ きもちいいの……ッ♡」
ばちゅばちゅと大きく肌同士がぶつかり合う音が狭いアパートの部屋に響く。込み上げてくる射精感と、もっとこのままでいたいという欲望が桜のなかでぶつかり合う。
大きく引き抜いては、一気に根元まで叩きつけるストロークの長い動きは蘇枋の下肢に狂おしいほどの痙攣をもたらす。
「ん、だめ、♡ オレ、っもう……イ、っく……う♡ イッ、ちゃ…………♡♡♡」
「オレも出す、……っ」
身体の内側から迸る衝動のままに、桜は腰の動きを早める。蘇枋がひとあし早く、まばゆい閃光が散るように屹立からぴゅく♡と白濁を出し、きゅうきゅうと桜のペニスを締め付ける。
桜は雄茎を蕾からずるりと引き出すと、ちいさく「うっ……」と唸りながら蘇枋の薄くてなめらかな腹に向かって白い飛沫を放出した。
「はぁ……っ……はぁっ…………」
大きく肩で息をしながら、蘇枋の横に桜は寝転んだ。
「……ナカで出さなかったの?」
呼吸が先に落ち着いた蘇枋が、ほんのちょっぴり恨めしそうに桜に囁く。
「は、ぁッ!? こ、コンドーム、なかったんだから当たり前だろっ」
「オレは赤ちゃんが出来ないんだから、ぴゅ〜っ♡ ってして欲しかったなあ……」
まだ息も絶え絶えの桜は、なけなしの力でばこん、と蘇枋の額を手の甲で叩く。
「痛いじゃないか」
「今のはお前が悪い」
はーっと呆れたように息をついて桜は両腕を横に伸ばす。一人用の布団からどちらの腕もはみ出していた。
「桜君は真面目だねえ」
光に透けると桑の実色に見える蘇枋のさらさらとした頭が桜の二の腕に乗る。
「お前がエロすぎんだよ、ほら、拭いてやるからシャツもっと捲り上げろよ」
「…………事後は、もっと雰囲気がないとダメなんだよ?」
「……はぁ!?」
声を荒げつつも、桜は枕元にあったティッシュで二人分の精液を拭き取った。
「初めてだったのに、こんなに上手だなんて桜君はよっぽどセックスの才能があるんだね♡ 『いい子』だね、桜君♡」
桜の前髪を、まるで赤子をあやすようによしよし♡と蘇枋が撫でれば、桜の力が指の先から徐々に抜けて頭のなかまでもがふわふわとしてくる。
「んだこれ……あったけぇ……」
「ふふ、これが、サブに対するドムからの『ケア』っていうんだよ。ここまでも何度かしてたけどね」
「ふーん……」
桜のまぶた同士がもう少しのところでくっついてしまいそうだった。
「眠い? 『頑張ったね』、桜君。寝ていいよ。後のことはひとりでやれるし」
「ん……」
ぬるま湯に浸かっているような感覚は次第に桜のなかで大きくなり、目を開けていられなくなる。蘇枋の肩をぎゅうと左手で胸の内に寄せると、すとんと眠りに落ちていったようだった。
「────桜君がサブだったのにも驚きだけれども……まさか、こんなにおっきい、なんてなあ……。ちょっぴりお尻が心配だけれど、またしよっか、桜君……♡」
夢の世界でぐうぐうと眠りこけたままの桜の逞しい二の腕を上から下へと撫でながら蘇枋はぽつりと陶然しているかの表情で呟く。
この半年ほどにクラスメイトたちが贈ったもので溢れかえってきた桜のすみかは、心地よい温度を保っている。桜の規則正しく上下する胸を、蘇枋は飽きるまで間近で見つめていた。
2024/10/27 COMIC CITY SPARK
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